BBCによるラジオ討論

 以下に翻訳紹介するのは、英国BBC Radio 4(August 1, 2005)の Today Programmeという番組によるもの。Discovery Institute のStephen Meyer博士とSir David Attenboroughによる討論で、Transcriptが付いている。

 司会:アメリカでは現在、20の州がダーウィン進化論を学校で教えることに関する何らかの論争に巻き込まれています。なぜでしょう。地方のロビイストたちが、ほとんどクリスチャンですが、インテリジェント・デザインという一種のクリエーショニズムをそれに置き換えようとしています。後ほどサー・デイヴィッド・アッテンボローの見解をうかがいますが、最初に科学通信員のポール・アボッシュが説明します。

 ポール・アボッシュ:インテリジェント・デザインというのはクリエーショニズム議論の一段階上のものと考えられます。クリエーショニズムと違って、このIDと呼ばれる理論は、宇宙は6日間で創造されたとか、地球の年齢は一万年だとかいうものでなく、ダーウィンの自然選択説では、生命体のもつ複雑さを完全には説明できないと主張するものです。特にそれは分子生物学における諸発見に注目しています。たとえば血液凝固は、一つながりのものとして働く10個のタンパク質を必要とします。ところでこれは、IDによれば、一つずつの遺伝子変異によって発達したものではありえないということです。なぜならこの過程は、それぞれの構成部品がすでに存在し、連携して働くことを要求するからです。
 しかしこの議論は別に新しいものではありません。1860年に、英国の聖職者であるウイリアム・ペイリーは、もし人が野原で時計を見つけたら、これほど精巧で複雑な機械は計画も目的ももたぬ自然の過程によって生じたものではないと推論するだろうと言いました。それはある知的な存在によって作られたとしか考えられません。しかし科学の研究は、自然の過程が実際、生命の複雑さを説明することができることを示しました。進化論生物学者は、現代のIDは、誘惑的に単純だが究極的に不完全な論理を提供するという、時計職人議論と同じ罠にはまっていると主張しています。彼らによれば、これは科学を装った反科学であって、彼らにとっては特別に危険なものだということです。ID提唱者たちは、アメリカの教育組織を通じて自分たちの主張を押し通そうとしています。ジョージア州ではある地域の学校が、「進化論は理論であって事実ではない」と書いたラベルを教科書に貼りました。ペンシルヴェニア州ドーヴァーは、ダーウィン理論に欠陥や問題があることを学生に教えるよう要求することになった最初の地域です。おそらく50の内20の州において、同じ論争があるものと思われます。しかしダーウィン理論の欠陥を明るみに出すことが、なぜいけないのでしょうか? なぜ神が一役買ったかもしれないという可能性を考えてはいけないのでしょうか? ID提唱者たちは、人々が心を開いて考えるように求めています。しかし批判者たちは、その結果は心を広げるよりも閉ざすことになると言っています。教育委員会としては、論争を避けて進化を全く教えないことにするのが一番楽で、現にあるところではそうしています。昔から進化論はある人々にとっては攻撃の的でした。それは神の存在を否定する理論だと信じているからです。しかしながら、ダーウィンを含めてこの理論を展開した科学者の多くは、自分自身では強い信仰をもっていました。彼らは、進化は神を否定するものではないと言っています。科学と宗教はそれぞれにすばらしく霊気を吹き込むものです。アメリカの憲法修正条項は、この二つが別々で分かれたままの方が両方にとっていいのだと言っているのです。

 司会:ただいまの報告はポール・アボッシュでした。ところで、シアトルに本部を置く「ディスカヴァリー・インスティテュート」は、インテリジェント・デザインを叫んでいる圧力団体の一つです。そのディレクターであるスティーヴン・マイヤー博士と電話がつながっています。そしてサー・デイヴィッド・アッテンボロー博士もこのラジオカーに来てもらっています。皆さん、おはようございます。

 デイヴィッド・アッテンボロー:おはようございます。

 司会:最初にマイヤー博士。あなたはそちらで、このIDというのは科学を装った反科学だという批判の声を聞いておられると思いますが、これにはどう答えますか?

 スティーヴン・マイヤー:最初に承知してもらいたいことは、アメリカではあなたが言われたのとは事情がちょっと違います。我々インテリジェント・デザインを推進している者たちは、この理論が公立学校で教えられるべきだとは言っていません。そしてこの問題について行動を起こそうとしている州のほとんどは、学生たちに、科学文献の中に存在するような科学的な進化論批判について学ばせようという提案をしているのです。インテリジェント・デザイン理論そのものは反科学などではなく、過去50年ほどの驚くべき科学的発見のいくつかに基づいたものです。特に細胞の中に現れる絶妙のナノテクノロジー、例えばタービン、ポンプ、スライド式締め具、ロータリー・エンジン、中でも特に、細胞を作動させるタンパク質の部品を作るための指令を出す驚くべきデジタル・コードといったものです。だからインテリジェント・デザインからする議論とは、今日の科学的発見の無知からする議論ではなくて、現実に科学そのものに基づいた、科学の最上の伝統を踏まえたものです。

 司会:サー・デイヴィッド・アッテンボロー、科学の背後に導きの手があるということをこの議論に対して認める余地はありますか?

 デイヴィッド・アッテンボロー:まあ私はこの二つは全く違ったものだと思います。真理を発見するのにとる手続きというものは全く違ったものです。科学は事実を見てそれらを調べてみようとする。証明や証拠を求め合理的な議論を求める。しかし宗教は何かを見ても自分の心の中のインスピレーションを求めるのであって、外の世界を見るのではない。ところで進化論では、何か分からないことに行き当たると、科学者はちょっとこれについてはいろんな構造を調べて見よう、というのであって、そういった研究が今言われたタンパク質などにつながったのです。しかしもし我々が、どうもこの仕組みは分からない、だからこれは神だ、と言ったらそれは科学ではない。そんなふうに言うのは本当の危険な混乱ですよ。

 司会:あなたは心の底から、自然的過程が生命の複雑さを説明することができると確信しているのですか? 例えば血液凝固の過程とか、人間の眼のようなものですが。

 デイヴィッド・アッテンボロー:ええ、もちろん。まあこの人間の眼というのは、いわば19世紀に提出された問題の一つで、現在では十分な研究がなされていて、人間の眼が生ずる過程が正確に分かっており、その過程の一つ一つが生きられるものです。今我々はその再試験をやっていますが、それはナノテクノロジーやナノサイエンスでは、別のものが見えてくるからです。つまり、これらの分子がいかにすごいものであるかということです。我々には理解できないのです。ところでもしあなたが科学者だとしたら、あなたは「よし一つこれを観察し調べてやろう」と言いますが、その場合、今見ている動物の一部となったこれらの分子の前には、少なくとも25億年の年月があったということを念頭においているのです。25億年というのは分子が進化するのに莫大な長さの時間です。

 司会:マイヤー博士、ということになりますと、科学の論理にしがみつく理屈が出てきますね。科学の背後で神が考える必要は必ずしもなくなりますね。

 スティーヴン・マイヤー:今行われているデザイン議論は標準的な科学の論理と推定に基づいています。そして他の形の進化思想と同じく、いわゆる斉一説(uniformitarian)の推定に基づいています。つまり、世界の現在の因果構造について我々が知っていることは、過去に起こったことを再現する基準になるということです。今いわれたナノテクノロジーの発見から現れてきたデザイン議論で、特に私を魅了するものの一つの例をあげさせてもらうなら、それはDNAという4つの文字からなるデジタル・コードです。それは文字通り情報をたくわえ伝達する。リチャード・ドーキンズは、それは機械コードに似ていると言いました。ビル・ゲイツは、それはソフトウェア・プログラムだと言いました。ソフトウェア・プログラムについて我々の知っていることの一つは、それにはプログラマーが必要だということです。実際、我々の周囲の、一様な反復される経験から我々が知っていることの一つは、ソフトウェア・プログラムだろうと神聖文字だろうと、情報は必ず知性あるものの発生源から生ずるということです。だから「デザイン」を推論するということは、どんな歴史的学問の推定も当然そうであるように、我々の現在知っている因果構造の知識に基づいているのです。ですからそれは、科学的推定から離反するものではなく、かえって科学的推定の標準的原則に基づいた何ものかなのです。

 司会:ちょっとここで、サー・デイヴィッド・アッテンボローへ戻してもいいですか? あなたはこれら異なった理論を、我々イギリスの学校で試してみる余地があるとお考えですか?

  デイヴィッド・アッテンボロー:私はIDを、あたかも科学であるかのように試してみる余地があるとは思いません。他の多くの哲学思想のように扱って、哲学として見る余地はあると思うが、それを科学と呼ぶのは正確でもなく危険でもあるだろうね。

 司会:サー・デイヴィッド・アッテンボロー、スティーヴン・マイヤー博士、どうもありがとうございました。

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創造デザイン学会