イデオロギー化した進化論

渡辺久義(2006年8月30日付け世界日報「Viewpoint」より)

 生物学者ジョナサン・ウエルズ(米ディスカヴァリー・インスティテュート上級研究員、たまたま私の友人でもある)の『ダーウィニズムとインテリジェント・デザイン』という新著が出た。実はこのタイトルには、頭に「Politically Incorrect Guide to」という皮肉な言葉がついていて、現在のダーウィニズム専制体制を皮肉る内容となっている。だから、コラム記事としてあちこちに分散して紹介されている多くのID関係書は、「読んではいけない本」となっている。同様に「開いてはいけないウエブサイト」として、IDや反進化論の多くのウエブサイトが紹介されているが、我々の運営する創造デザイン学会のhttp://dcsociety.orgも「開いてはいけないサイト」の栄誉を受けている。

 ポリティカル・コレクトネス(政治的公正)とは、多く皮肉をこめて使われる言葉で、主として人種や身障者に対する気配りの行き届いた(あるいは過剰に行き届いた)言葉遣いや態度を指していう。これが「言葉狩り」や部落解放運動のように困った問題に発展するのは周知の通りである。

 ウエルズの本のタイトルの意味するのは、現在のダーウィニズム専制体制が(部落問題のように)神聖にして侵すべからざるもので、これに異を唱えたりする者は、学者としてのみならず人間としても、問題ありとして排斥されかねない雰囲気があるということである。このことはダーウィニズムというものが学問の領域を超えて、政治的イデオロギーになっていることを意味する。最近ようやく、『裸の王様――暴かれたダーウィニズム』(Antony Latham, The Naked Emperor: Darwinism Exposed, 2005)などという本が出る(出せる)ようになったが、こういったこと自体異常である。

 この誰の目にも明らかな、(詭弁に近い)強弁によって成り立つダーウィン進化論が「裸の王様」であることを、学問の世界で言い出せない、言い出せば「政治的公正」を失するというのは只事ではない。これが共産主義体制での体制批判と弾圧に酷似していることは否定しようがない。これが専門家仲間の話にとどまればまだよい。問題は、ダーウィン進化論だけが唯一正しい考え方として教科書に掲載され、我々や我々の子や孫が、それとは知らず洗脳教育を受けていることである。

 私は進化論教育というものが明らかに犯罪に当たるとして、雑誌記事を書き続けているが、犯罪というのが大げさだとか過激だとか思う人は、前記ウエブサイトで私の論証を参照の上、ご判断を願いたい。

 ジョナサン・ウエルズは、つとに現行の生物教科書の数々の欺瞞や隠蔽を指摘し(前記サイト「不適者生存」参照)、驚くとともに警告を発している――「科学は今、ダーウィン理論の柱となっているものの多くが、虚偽あるいは人を誤らせるものであることを知っている。しかし生物の教科書は、相変わらずそれらを進化の現実の証拠として掲載し続けている。いったいこれは理科教育基準の何を意味するものなのか?」

 たとえば、ほとんどの生物教科書が伝統的に載せ続けていて、私のような年配者にも鮮やかな記憶のある、あのヘッケルの胚の比較絵(各種脊椎動物の「初期の胚」は互いに似通っていて、すべてえら鰓と尻尾を持つとする絵)がある。画像の力は強いから、たいていの人はこれを刷り込まれ、この百三十年前(!)の絵(版画)が証明するという「個体発生は系統発生を繰り返す」という格言のような「法則」は真理だと思っている。現在の教科書もこの「法則」を、やや断言を避けるものもあるが、大体は真理として記述している。

 しかしこの絵が悪質な作為による偽造であることは、ヘッケルの生存当時から分かっており、ヘッケルは当時の多くの専門家によって糾弾され、やむなく新聞紙上に偽造を告白したのである。この絵が偽造であり、「反復説」にも全く根拠がないという専門家の証言は、枚挙にいとまがない。したがって今も昔も、ほとんどの専門家は真相を知っていると思われる。にもかかわらず、この絵と「法則」はあるときから教科書に載せられ、誰もこれを咎める者もなく、現在まで存続している。

 この最大級の理不尽と謎の背後には、何らかの強力な圧力が働いているものと想定しなければならない。ダーウィン=ヘッケル進化論は、当時(二十世紀初頭)のドイツやヨーロッパ列強にとって、真理でなければならないという社会的要請があった。それが暗黙の圧力として、現在にまで及んでいるとしか考えようがないのである。

 ヘッケルはダーウィンに対して、マルクスに対するレーニンの役割を果した。ダーウィニズムがイデオロギーとして世界制覇を目指すには、ヘッケルが必要であった。ダーウィン=ヘッケリズムはナチ思想に「科学的」根拠を与えたが、自ら政権を取ることはなかった。とはいえ国際共産主義に近い立場を現在も保持している。もしダーウィニストが現実に政権を取っていれば、こういう「政治的に不公正」なことを書く私などは、さしずめ強制収容所送りであろう。          

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