Discovery Institute News

スミソニアン博物館員迫害事件とその後

By: Jack Cashill
World Net Daily
February 15, 2007


2006年12月も押しつまったころ、米国政治改革下院委員会が、アメリカでも声望のある公共機関の一つ、スミソニアン博物館の内情についての不名誉な報告を発表した。

いつか学生たちは、この赤裸々な題のついた報告――「スミソニアン博物館における非寛容と科学の政治思想化」――を、科学史上の一つの転換点として学ぶことになるかもしれない。しかし今のところ、この報告とその核心であるスキャンダルについては、全米の学校はもとより、メディアにおいても、ほとんど話題になっていない。

スミソニアン・スキャンダルのガリレオであるRichard Sternberg博士は、「報道機関はこの報告に触れたがらないのです。このようなことは起こってはならないことだから」と語る。

スターンバーグ博士に起こったことは、ワシントンの標準からしてもショッキングなものであった。氏の経歴に加えられた損傷は現実的で、取り返しのつかないものであり、科学の体制派が、その不可侵のパラダイムとするダーウィニズムとその派生思想に対する挑戦を、いかに弾圧することができるか、その手段の露骨さを証明するものであった。

長年にわたって、進化生物学者スターンバーグは無事平穏に、この研究機関で確固たる経歴を築いてきた。スミソニアンと関係のある国立衛生研究所(NIH)に採用された彼は、スミソニアンの出している雑誌「ワシントン生物学会論集」(Proceedings of the Biological Society of Washington)の編集主任を務めてきた。

2004年スターンバーグは、ディスカヴァリー・インスティテュートのStephen C. Meyerの「生物の情報の起源と上位分類学的範疇」(The Origin of Biological Information and the Higher Taxonomic Categories)という厳密に論証した論文を掲載することに決めた。

マイヤーの主張のポイントは、ネオ・ダーウィニズムは、5億3千万年前といわれる化石の中に大量 に吹き込まれた新しい遺伝情報を、納得のいくように説明していないと主張するものであった。

カンブリア爆発と俗称される、この比較的短い先史の期間に見られるのは、ほとんどの複雑な動物形態が、そこに至る進化の様子もなしに一気に現れたという事実である。今日に至るまで進化生物学者たちによる、それらの起源の謎解きは、ほとんど進歩していない。

マイヤーはその解明を試み、「理性をもつ作用者」のみが、機能する、情報に満ちたシステムを、デザインし組織する能力を示すことができると演繹的に論じた。「自然選択は先を見ることができない。自然選択がもたない能力を、知的選択、すなわち目的をもち、あるいは目標へと方向付けられたデザインは示すことができる」とマイヤーは続けて論じた。

マイヤーの論文を受理する少し前に、スターンバーグはピア・レビュー(査読)の倫理についての勤務時間内講義を視聴していた。彼がこの講義から得たことは、論文を判定するように選ばれた査読者は、私利・私見のためにその論題に偏見をもったり贔屓をしたりしてはならない、ということであった。

彼自身はインテリジェント・デザインの理論家でも擁護者でもないのだが、スターンバーグはこのテーマは議論に値すると考えた。そこで彼は、彼と同様ID擁護者というわけではないが、同じとらわれぬ 考えをもつ科学者仲間の3人を査読者に選んだ。彼らはいくつか修正すべき箇所を示唆し、マイヤーはこれを取り入れ、論文は2004年8月に公表された。

マイヤーの論文を掲載するとき、スターンバーグはただ、これが健全な議論を引き起こすきっかけになれば、と考えただけだった。彼は、その結果 として身に降りかかってきた狂気じみた騒動を、「まったく予想していなかった」のである。

このような事態になった以上、これら3人の科学者は自分の経歴や立場が損なわれることを怖れて、名前を明かしていない。しかし審査記録をしっかり調べた結果 、手続きに問題があったと言う者は一人もいない。

今日このような狂気じみたことは、ほとんど必然的にEメールによって起こる。しかし現今の学界の標準から言っても、スターンバーグ処罰のEメール運動は、異常に迅速でかつ悪意に満ちたものであった。

例えば彼の同僚のある動物学者は、彼らの共通 の部長であるJonathan Coddington博士に対し、なぜ異端的なスターンバーグを役職、しかも個人名のつく役職につけておくのかと迫った。偏執狂ともいうべき偏見をもつこの動物学者は、彼自身の役職も再考されるべきだと要求した。

コディントンはポンティウス・ピラトよろしく、勇気と確信をもって事にあたった。「現在のところ私は彼を解職するつもりはない。しかしあなたに何か希望があるのか?」と彼は同僚に言った。

コディントン自身の計画は、スターンバーグに会い、「もし体裁よくやりたければ自分から完全に辞職するか、役職を降りるのがよい」と勧めることだった。スターンバーグがこの提案を拒否したとき、コディントンとその仲間は、卑劣な復讐、あらゆる研究上の妨害という死刑にあたる手段に訴えた。

スターンバーグが研究者としての地位 を保つためには、研究計画の綿密な概要、書こうとしている論文、その完成予定時期、投稿しようとしている雑誌、用いる予定の見本や資料の完全リスト、そういったもののカタログナンバー、それらを利用する回数や日付、更には予定のオフイス・アワーまで、詳細に述べた文書を作らねばならない。

そこでついに、偏執狂に屈したコディントンは、スターンバーグに対し、彼の所持するマスターキーを返還するよう求めた。下院報告が述べているように、彼の同僚たちはスターンバーグがその鍵をもっていることを「非常に不愉快に」思っていた。「彼らは彼が自分たちの部屋に侵入し、盗んだり、資料を荒らしたりするかもしれないと怖れていた」(下院報告)。スターンバーグが過去5年間何の落ち度もなく勤めてきたという事実も、彼らを黙らせることはできなかった。

スターンバーグが、他の研究員も過去に同じような扱いを受けてきたのかと尋ねると、コディントンは、「これは他の研究員には関係のないことで、あなただけに関することだ。あなたは特別 に扱われている。しかしなぜ特別に扱われるのかは、あなた自身がよく知っていることだ」と答えた。

スターンバーグの特別扱いの明らかな一つの理由は、下院報告が述べている「博物館に存在している全般 的な反宗教的文化」である。マイヤー論文が発表されて以後、コディントンとその仲間はスターンバーグの個人的背景を調査し始め、彼が正体を隠した「宗教的根本主義者」ではないか、それとも隠れ「共和党員」ではないのか、といった詮索をし始めたのである。

これら館員たちは、ダーウィニズム宣伝組織である全米科学教育センター(NCSE)と結託して、この孤立した編集者の名誉を傷つけようとした。「スターンバーグ博士からは目を離さないようにします。もしあなたでも他のNCSEの専門家でも、この人物の甲殻類研究以外の領域での活動について何か知っておられたら、教えてくだされば幸いです」と、スミソニアンのHans Sues博士はNCSE所長のEugenie Scottにメールを送っている(注――急いだらしく誤字脱字が多い)。

「勤務時間と公金を使っての」この結託の実態は「驚くべきもの」だと、下院委員会は表現している。のみならずスターンバーグの同僚たちは、これを知る必要のない人々にまで怒りを伝えている。実際彼らは、世界中の科学者に彼の異端ぶりを知らせているのである。

あるオランダの科学者は、スミソニアンの同志にこう返事を書いている――「こういった連中はのさばり出て、我々の学校や生物授業や博物館や専門雑誌まで侵略しようとしています。この者たちは私には、他の部分でのもっと恐ろしい破壊活動をする過激派集団に、加勢する連中にすぎないように思えます」

仰せの通り!「こういった連中」のある者は、インテリジェント・デザインについて論文を書き、またある者は世界貿易センターに飛行機で突っ込んでいる。スターンバーグの述懐では、ナチスに比較してもいいようだ。

2005年には、NCSEは、これまでスターンバーグに向けてきた静かなゲリラ闘争を、もっと大きな闘争へ拡大した。その思想的盟友、とりわけACLU(米国自由民権連合)と手を組んだNCSEは、アメリカの公立校を科学論争から守ろうとする運動を、争いなど予想していなかったペンシルヴェニアの町に持ち込んだのである。

NCSEは自分たちの正しさを、一人の裁判官にわからせるだけで十分だった。そして実際そのようにした。2005年12月、ジョン・ジョーンズ判事は、(ペンシルヴェニア州の)ドーヴァー学区が学生たちに、「ダーウィン理論の欠陥や問題に気付かせ、またインテリジェント・デザインを含む(ただしそれに限定せず)他の進化論があることを教える」ように要求したのは、合衆国憲法に違反するという判決を下したのであった。

IDの欠陥の決定的な証拠として、ジョーンズは「この理論を支持する査読された出版物が皆無であること」をあげた。査読というのは科学的過程においては「この上なく重要なもの」であると彼は真顔で論じた。この裁判は、ドーヴァー学区教育委員会にとって百万ドル以上の負担がかかったが、これはACLUやその同盟者にとっては大した額ではない。こうした例を見て、他の多くの地方学区が、金回りのよいダーウィン連盟に刃向かうのを諦めるようになるのである。

ダーウィン連盟の方は、ジョーンズの裁定を「知力と学識と明確な思考による傑作」であると持ち上げ、また「タイム」誌は、科学者・思想家の部門で「最も影響力のあった世界の人物」の一人に、この判事をあげたのである。ところが実は、ジョーンズ判決のIDについての論述部分は、その90%以上が、判決より一ヶ月前にACLUが提出した「事実報告」文書からの、ほとんど逐語的な敷き写 しであった。

NCSEやACLUは、スミソニアン博物館がマイヤー論文の査読の手続きを、いかに公正に行ったかを知っていたはずである。彼らは、査読された論文が「皆無」なのではなく、出版されていたものが禁書扱いされていただけであることを知っていた。明らかに彼らはその情報を裁判官と共有することを避けたのである。

現在、リチャード・スターンバーグ博士は、わずかに爪の先でNIHにぶらさがっている。「職場はあります」と彼は渋い顔で言う。

もしこうなることがあらかじめ分かっていたとしたら、あなたはマイヤーの論文を掲載したでしょうか、と私が尋ねると、彼はしばらくためらい、「その点については黙秘します」と言った。

一方、スミソニアン博物館についてはどうか。彼らはスターンバーグ事件をめぐって何らの行動も起こそうとしないので、下院委員会は、米国議会が、国家基金による研究所の科学者の間での「進化に関する自由な言説の権利を保護する」決議をするよう勧告している。

これが進化生物学の現在のありさまである。

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