生命への畏敬の根拠、ある?ない?

渡辺 久義
世界日報「ビューポイント」
2007年1月10日

 大阪で起きた姉妹殺害事件に対する死刑判決が先日あり、その判決文に「生命に対する一片の畏敬の念すら感じられない凶悪かつ残虐非道な犯行」(並木裁判長)という文言があった。
 そこで今、本紙のインテリジェント・デザイン(ID)特集が明らかにしているように、アメリカで居丈高になって自分たちに対する批判者を弾圧している、そしてわが国にも応援者が多いはずのダーウィニスト諸君にお尋ねしたい。
 「生命に対する一片の畏敬の念すら感じられない」などという判決理由は、諸君にとって片腹痛いものであるはずだが、いかが? 諸君は若者を傍らへ引き寄せて、「あれは社会秩序のための方便であんなことを言っているが、科学的には生命は畏敬するようなものではないのだから判決理由にはならないのだよ、そこを誤解しないように」などと教育したくなるはずだが、いかが?
 「自分はダーウィン信奉者だがそんなひどいことは言わない」という人があれば、その人はダーウィニズムというものを誤解しているのである。ダーウィニズムにとって生命が畏敬の対象でないことは明らかである。
 中には、「自分は、生命は物質から自然発生した(生物教科書はそう教えている)と信じている唯物論者だが、自分の祖先が何であるかなどということは、現在の自分や現在の人間の文明には関係がない」と言う人があるかもしれないが、これは明らかにおかしい。それは自分が何者であるかをごまかして一生を送ることであって、人間の生き方ではない。
 そのあたりを人は今までおおむね曖昧にしてきた。むしろ曖昧にしておく方が都合がよかった。しかし今、否応なくけじめをつけなければならない時がやってきた。それが今アメリカで荒れ狂っているID論争(むしろ闘争)のもたらした収穫ともいうべきものである。この闘争で明らかになったことが二つある。一つは、ダーウィニズムの本質が明らかになったこと。もう一つは、二種類の人間の対峙の構造が明らかになったことである。
 まず、ダーウィニスト側のあまりにも露骨な数々の物理的対抗措置は、彼らが理論的にID側に太刀打ちできない証拠である。
 彼らは裁判に訴えて決着をつけたがるが、本紙が先日(昨十二月十九日)報道したように、あのドーヴァー裁判(ちょうど一年前私がそのうさん臭さを本欄で指摘した)の判決文の肝心の部分が九〇パーセント以上、原告(ダーウィニスト)側の提出文書の丸写 しであったことが判明した。最近の学生の書く卒業論文にはインターネットからの丸写 しというタチの悪いのがあるが、それでもここまでははやらない。彼らが勝訴したとき、「IDは科学でなく宗教です」と大見出しで書いた日本の新聞があったが、「残念、丸写 しでした」となぜ書かないか。ついでにこの新聞に尋ねるが、あなた方は「生命に対する畏敬は宗教、すなわち違憲です」と書く気はないのか。
 むろん判決は覆らない。しかしそんなことには関係なく、今進行中の闘争によって明らかになりつつあるのは、今まで見えなかったダーウィニズムというものの本質、その本来の犯罪的性格である。犯罪的というのが穏やかでないと思う人は、ダーウィニズムの受容の動機と宣伝と定着の歴史、特に生物教科書の欺瞞の歴史を調べてみるがよい。ダーウィン進化論はそもそもの初めから、その証拠の有無に関係なく、また宣伝屋ヘッケルがいかさま師であろうとなかろうと、「事実」であり「科学」でなければならなかったのである。
 「生命に対する畏敬の念」に理屈などいらない、と言う人もあるかもしれない。しかしふつう我々は根拠を求める。ただこれはずばりと証明するようなことではない。ID派はこれを、最近の科学の成果 による多くの状況証拠から推理するだけである。それは一枚の紙の上に、確実に実証できることを周囲から墨で塗りつぶしていくのに似ている。すると真ん中に文字らしいものが白く浮かび上がる。それはどうもDの字らしい。よくよく見ると「デザイナー」と読めるようだ、というものである。これは反対派の言いふらす、「聖書に基づいた古臭い創造論の焼き直し」とは正反対のものである。
 しかしダーウィニストたちに、それは誤解だから誤解を解いてくれ、などと言っても無駄 なことはここ数年来、経験済みである。彼らは批判者を力で押さえ込もうとするだけである。これは北朝鮮に非常によく似ている。理屈は通 用しない。彼ら自身も、ダーウィニズムがイデオロギーであって科学などでないことは、むろん承知のはずである。ではそれを、これほどまでに死守しなければならない理由は何か。体制派の権力欲・既得権益ということの他に、もっと深い深層の動機があるはずである。アンシャン・レジームは必ず崩壊しなければならない。しかしそれが今後、どういう曲折を経てどういう形をとるかは全くわからない。北朝鮮とともに、しばらくは目が離せないところである。

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