Access Research Network (ARN)

2009年次報告
―2009年の主要な「ダーウィンとデザイン」科学ニュース・ストーリー

読者ならびにARNを支持してくださる皆様方へ、

過去12カ月を振り返って、さまざまな科学と文化の発展から点と点をつないでみて何がわかるか、またダーウィン・デザイン論争に明白な方向が見えてきたかどうかを検討してみる時期がやってきました。

今年のARNの進展の一つとして、Darwin or Design Radio Programが発足しました。このラジオショーについては、この報告の最後に詳細を述べますが、まず最初に、この一年の主要なニュース・ストーリーのいくつかを振り返ってみることにします。次にあげる科学ニュース・ストーリーから浮かび上がる2つのパターンがあります。1)ネオダーウィニズムは、データを説明するのに限界があり無力であることを論ずる論文が増えてきたこと(今やダーウィニズムがすべての解答を握っているのでないと認めることが、科学文献において認められてきたようです)、2)科学者たちは引き続き、偶然や法則で説明できない自然界のパターンがあることを明らかにしつつある、つまりデザインの証拠がますます増えてきたこと。

2月以降の2009年の重要な科学ストーリーの概観は次の通 り――

<現代総合説は終わった>
2009年2月Eugene Kooninは、ゲノム分析の進化論的思考への影響を見事に分析する論文を発表した(“Darwinian evolution in the light of genomics,” Nucleic Acids Research, 2009, 37(4), 1011-1034)。クーニンは1959年の『種の起源』百年記念祭は「現代総合説の強化という著しい特徴があった」が、その後大きな変化が起こり、ついに総合説は信用性を失うに至ったと述べている。現代総合説は、自然選択、群遺伝学、細胞学、システム理論、植物学、形態学、生態学、古生物学からの見かけ上矛盾する証拠を糾合して、ネオ・ダーウィン進化論という1つの現代的理論にまとめ、1930年代と40年代に公式化されたものである。過去半世紀の間に3つの別 々の革命が起こり、現代総合説は崩壊するに至った――すなわち分子生物学、微生物学、およびゲノム分析という革命である。クーニンは、この捨てられた現代総合説によって生じた穴を埋めるべく現れた考え方が、2つあるのではないかと言っている。1つは偶然の役割を強調するもの、もう1つは法則の役割を強調するものだと言う。科学者共同体の多くの者は、あとしばらくはこの総合説にしがみつくであろうが、現在、この理論がもはや分子生物学、微生物学、ゲノム分析のデータに合わないのでこれを放棄すべきだと主張する論文が、査読付きの科学文献に発表され始めていることには大きな意味がある。

<細胞モーターは協調して働く>
一つの分子機械がそれ自体でデザインの驚異だとしたら、それらのグループが協調して働くことについてはどうだろうか? 最近の論文やニュース記事は、まさにそういうことが生きた細胞の中で起こっていると主張している。分子モーターは互いに協調して動くのである。2009年2月25日号の「サイエンス・デイリー」は、この問題について「細胞の内部でさえ左手は右手のやっていることを知っている」という言葉で始めている。ヴァージニア大学の研究チームは、Chlamydominasという「単純な」藻類が鞭毛を使って動かねばならないとき、「分子モーターは驚くほど相互調整されたやり方で動いていることを発見した」と言っている。これは、モーターは激しい生存競争で互いに張り合っているとするこれまでのモデルと矛盾するものだ。「この新しいヴァージニア大学の研究は、モーターは相互調整されて働いており、あたかも厳しい指令を受けているかのように、すべてが一方向へ向かうかと思えば、次には別 の方向へ向かうという、強力な証拠を示している。」

<化石イーダ(Ida)のペテンと失敗>
2009年5月のイーダというキツネザルの化石(学名Darwinius masillae)の宣伝は前例のないものだった。これは世界中のメディアや知識人の眉をひそめさせた。科学者はメディア興味をとらえメディアを操るすべを心得ているとはいえ、この場合の彼らの専横はあまりにひどすぎた。これは直ちにペテンであることが判明した。明らかにイーダの科学者たちは、メディア宣伝用のセンセーショナルな「ミッシング・リンク」を持ち出して、ダーウィン二百年祭の出し物にしようと目論んでいた。ところがその代わりに、彼らはダーウィンにもう一つの黒星をつけてしまった。これは「サイエンス」八月号に出たRichard Kayによる論文“Much Hype and Many Errors”(多大のペテンと多大の間違い)によって明らかになった。研究者たちはもっと深く調べれば、このすばらしく保存された化石キツネザルは、生きている、あるいは化石のキツネザルの変種の範囲内にあること、そしてこれは、キツネザルはその基本型の内部で安定状態を保つことの証拠としてより適したものであることが分かるかもしれない。

<歩く白血球>
どのようにして白血球――免疫システムの「兵隊」――は感染や怪我の現場に到達するのだろうか? そのためには彼らは血管の内壁に沿って、そこにしっかりつかまり血流に流されないようにしながら、速やかに這ってかなくてはならない。そしてその間ずっと、彼らが損傷を受けた組織にたどりつくには、どこで血管の壁を通 過すべきかを知らせる特別の付着分子でできた一時的な「道路標識」を探しているのである。この驚嘆すべき物語は、2009年5月の「サイエンス・デイリー」に、イスラエルのワイツマン科学研究所からのプレス・リリースに基づいて報告された。そのアニメーションはHarvard BioVisionsで見ることができる。Extravasationという名のメディア・ファイルをクリックすればよい。このプレス・リリースは更に続けて、彼らの脚はただ歩くだけではないと言っている。それは彼らがこの血管の内壁にできた組織に押しかけると、探り針として働くのである。血液の力によって現実に、彼らはその組織に彼らの小さな脚を埋め込み、そうすることによって損傷組織のありかを探りそちらへ進むことができる。「科学者たちはこの小さな脚は3重の機能をもつと考えている――しがみつくため、移動するため、そして損傷組織からの苦痛信号を感じ取るためである」とこの記事は述べている。

<細胞の中の署名>
スティーヴン・マイヤーは昨年6月、思考の種を提供する著書『細胞の中の署名』(HarperCollins社刊)を出版して、インテリジェント・デザインの立場を強力に訴え、IDは科学ではないという議論を退けた。Dan Petersonは2009年9月の「アメリカン・スペクテーター」のレビューで、「Signature in the Cellは生命起源の論争と、生命がものを考えない物質から生まれたものか、それとも知的な心の産物であるかの問題に決定的な解答を与えた著作である。これは興味を引きつけ、目を開かせ、しばしば目玉 を飛び出させる本だ」と評した。昨年後半の一連の大学講義や討論会でマイヤーは、DNAの情報内容とその情報を処理する生物学的機構は、インテリジェント・デザインの明らかな証拠となるという論点を弁護した。本書とともに出されたJourney Inside the Cellという3分間のビデオは、マイヤーの観点に驚くべき視覚的説明を与えている。

<カンブリア爆発が唯物理論に挑戦し続ける>
BioEssays 2009年7月号のある論文が、カンブリア爆発に「唯物論的根拠」――もっともらしい唯物論的説明――がないことを認めている。この論文はこう述べる、「従って、カンブリア爆発の唯物論的根拠を明らかにしようとする企ては、この出来事そのものを知れば知るほど、より確実になるのでなく、より見込みのないものになっていく。現代の一部のネオダーウィニストの反対論にもかかわらず、中間型の欠如を長い地質学的時間の広がりに結びつけて、これを説明し片づけることはできない。」この論文の他の部分は、ダーウィン理論が予言した新しいボディ・プランの漸次的出現でなく、むしろカンブリア紀以後の全体的な門やボディ・プランの消滅の説明に、焦点を当てている。この物語のインパクトは、2009年7月Illustra Media社によるドキュメンタリー映画Darwin’s Dilemma: The Mystery of the Cambrian Fossil Recordの発売によって、更に大きなものとなった。

<生物学の集合主義的革命>
Nature Physics 2009年8月号に載ったMark Buchananのエッセーは、「伝統的な進化論的思考が前提とする多くのもの」との決別 を宣言している。彼はそのメッセージをこう強調する――「来るべき革命は、それが進行することにより、生物学における鍵的な説明過程としてのダーウィン進化論を、いずれ引き下ろすことになるかもしれない。」このエッセーは、現代物理学における集合的現象の認識に発する相互啓発思考に貢献するものである。ものの考え方が還元主義から離れていき、全体論的(holistic)相互作用主義を取りはじめている。ブキャナンは物理学と生物学の間に並行関係を見ている。物理学と工学の諸道具が、すでに生物組織内部の相互作用ネットワークを理解するのに用いられている。なぜこれがダーウィニズムを超えることになるのか? それはダーウィン進化論のメカニズムが本質的に還元主義的であり、個々の生命体が他の個体と競争して生存闘争をするものと考えるからである。ダーウィン理論の内部では、環境はフィルターとして作用し適したものを生き延びさせる。新しく台頭してきた生物学的機能の理解では、水平的遺伝子転移のように、個体から離れて個体群を育種することに向かう。系統樹は今や構築性をもたないブッシュのように見える。ダーウィニズムは本質的に還元主義だから、水平遺伝子転移をそれ自身の観念的モデルに合うように構成することもできる。しかし簡単にできないことは、あらゆる方面 に現れてきたホーリスティックな見方を採用することである。これこそが、デザインという思考枠を不可避的と考える科学者が増えてきている理由である。デザインは、システム生物学や生物模倣、その他多くの現代の研究領域に、一貫性あるコンテクストを与えている。

<初期の大きな銀河系が宇宙学者を驚愕させる>
<細胞はクラウド・コンピューティングを利用している>
<オオシモフリエダシャクが元のグレイに戻る>
<生物のデザインのリヴァース・エンジニアリングが盛んに行われる>
<還元不能の複雑性への攻撃の失敗>
<化石アルディ(Ardi)のペテンと失敗> などいくつかの項目は翻訳を省略した。

<2009年を振り返って>
ID不信者は、上記の個々のニュースをどれでも、科学的唯物論の威勢のいい行進の単なるはみ出し事例として片づけることができるかもしれない。しかしこれら2009年の科学的進展を一つの全体として振り返って見たとき、ダーウィン理論にとってはかなり不気味な全体像が浮かび上がるであろう。ダーウィンの弟子たちが、その生誕200年、『種の起源』150年のお祝いをしている一年間に、主流科学ジャーナルが発表した論文の内容は、1)現代総合説は死んだ、2)ダーウィンの系統樹は放棄すべきだ、3)新しい「ミッシング・リンク」はホラだった、4)ダーウィニズムの限界が実験室で実証された、5)オオシモフリエダシャクのような進化のイコンが元の色に戻った、6)カンブリア爆発はもっともらしい唯物論的説明を拒否する、7)ダーウィン進化論の還元主義パラダイムを拒否する学際的革命が生物学で起こっている、等の主張をするものだった。一方、デザインの証拠は増え続け、1)ID理論家による査読を経た論文や著書、2)非唯物論的起源を要求するDNAの情報内容、3)生物システムの驚嘆すべきデザインの増え続ける「リヴァース・エンジニアリング」、4)発見と記録が相次ぐ生命体の還元不能の複雑性、などが顕著であった。なんというすばらしい一年であったことか!

ARN研究所所長 Dennis Wagner

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