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親愛なるベン…

Michael Egnor
August 21, 2009

To: ベン・スタイン
From: ウォールター・ダランティ(Walter Duranty 1884-1957)
(ニューヨーク・タイムズのピューリッツァー賞受賞記者。後にソ連からの報道が虚報だったことが発覚し、この賞は剥奪すべきだと言われている。死んだがクビにはならなかった)
936,287,434 地獄の七回り目、モレク町、ゲヘナ

親愛なるベン、

君がニューヨーク・タイムズを不依願退職になったことにお悔やみを申し上げる。ここ地獄では我々はみな大いに面 白がっている。

もちろん我々はみんな、君が「グレイ・レイディ」(NYタイムズのあだ名)からの簡単なeメールの通 知でクビになったことぐらい知っているよ。口実は、タイムズの経営陣が非倫理的と考えたオンライン債権情報会社のやるようなことを、君が引き受けて触れまわったという罪によるものだ。・・・(中略)

君がクビになったのはイデオロギー的な理由による――君がゴールドマン・サックスを批判したこと、オバマ大統領の政策に懐疑的なこともその一つだが、最大の理由は、要するに君が「合わない」ということだ。

「合わないって?」と訊ねるのか? では説明してやろう。

君は間違いなく私のことは覚えているだろう。1930年代、私はソヴィエト連邦の実験を証言するニューヨーク・タイムズの特派員だった。しかし私はスターリンのためにも働いた。私は人類史上最も大量 の全体主義的虐殺のための非登録のサクラだった。ウクライナにおける1千万もの人々の作為的餓死に、ニューヨーク・タイムズの肯定的承認――グレイ・レイディのにんまり顔――を与えたのは私だ。にもかかわらず私はニューヨーク・タイムズをクビにはならなかった。それどころかピュリッツァー賞までいただいた。

マルコム・マガリッジ(Malcolm Muggeridge ダランティの虚偽報道を正した記者)が、ソ連から「ホロドモール」(Holodomor スターリンがウクライナ人を意図的に大量に餓死させた事件)についての正確な特電を外交文書にまぎらせてひそかに送らねばならなかったのに対し、私の巧妙な作りごと記事が大見出しでこの「一流新聞」紙上で喧伝されたのは、なぜだろうか?

理由は簡単だ。NYタイムズには方針がある。それに合うものだけがニュースになる。1931年にはソヴィエトという装いの科学的唯物論がそれに合った。それで私の記事が通 った。1957年にはキューバという装いの科学的唯物論がそれに合った。ハーバート・マシューズの記事が通 った。1975年にはカンボディアという装いの科学的唯物論がそれに合った。シドニー・シャンバーグの記事が出た。2009年にはダーウィンという装いの科学的唯物論がそれに合った。サム・ハリスの記事が歓迎された。

君は例のメモを読んでいないのだろう。科学的唯物論が絶対信条なのだ。一世紀間変わらずそうなのだ。ところが君はそれに難癖をつけた。

君は『追放』という映画を作った。

そこで君はクビになった。新聞は真理操作の権力をもっている、と君は言うかもしれない。しかしもう一つあるのだよ。我々を本当に怒らせたのは何だか君は知っているかい。

君はサウルからアイデアを盗んだのだ。いいや、あのサウルではない。我々はダマスカスへの途上で彼を失った(とても残念な幕切れだった、あれだけ反宗教の有望な男だったのに!)私の言うのは我々のサウル、サウル・アリンスキー(Saul Alinsky)だよ。

彼は彼の傑作『過激派のルール』を父なる神にささげたのだった――

「人間に知られた最初の体制反逆者であり、それを見事にやってのけて少なくとも彼自身の王国を手に入れたあの者、ルシファーを忘れないようにするために」と彼は書いた。

『追放』において、君はサウルのルールを盗用したではないか。

ルール5.「からかいは人間の最も強力な武器である。からかいに反論することはほとんど不可能である。またそれは相手を激怒させる。それがこちらの思うつぼだ。」

ルール13.「標的を選べ。身動きできなくさせよ、人身攻撃をせよ。そして問題を二極化せよ。」

ルール6.「よい戦略とは、あなたに注目する人々を楽しませるやり方だ。」

これらは我々の戦略だ。よくも君は――よくも君は――我々に向かってこれを使ってくれたな!

それこそ君がクビになった理由だ。それは「倫理」などに全く関係がない。請け合うが、ニューヨーク・タイムズは倫理などに全く関心がないのだ。ウクライナの人たちに聞いてみるがよい。キューバの人たちに聞いてみるがよい。カンボディアの人たちに聞いてみるがよい。タイムズは倫理を外注しているのだ。「パブリック・エディター」といって倫理をやってくれる人を雇わなければならないのだ。君は、倫理をやってくれる他人を雇わねばならない医者にかかる気になるかね? 君がクビになったのは、あの『追放』が我々には痛かったからだ。それは唯物論者を傷つけた。しかも我々自身の戦略を使われたことによって、なお一層我々は傷ついた。「標的を狙い、からかい、それによって楽しませよ。」

いったい君は知的所有権というものを知っているのか? それは我々の戦略であって、君のものではない。君は我々を身動きできなくしておいて、我々をからかった。しかもそれを笑みを浮かべてやってのけた。それは恐ろしく効果 的だった。我々は君を決して許すことはないだろう。

『追放』は我々にとって戦略的破局であったが、それを君は、我々が自分で自分を滅ぼすように仕組んだ。我々はカメラに向かって言った――「宗教とは編み物みたいなものだ」「教会を維持したい者はそうするがよい」「生命は結晶から生まれた可能性がある」「いや、それは稲妻から生まれたのだ」「いや、異星人から来たものだ」…

君は代価を払うことになった。あのオバマ批判はロバの荷の最後の藁だった。我々はそれよりずっと前から君をつけ狙っていたのだ。我々は斧を振りおろす前に時間を取って、民衆が点と点をつなぎ合わせることがないように気をつけた。しかし君は罰を受けた――追放されたのだ。いわば寓話を地で行くような話だ。この皮肉がわかるだけの頭をもった人々の大多数は、いずれにせよ我々のことをとっくに理解している。だから我々は、君の映画のテーゼを暗に証明したからといって何も失うものはない。これは一つの教訓だったのだ。新しい装いをこらして現れた科学的唯物論を支持せよ、そうすれば切符をもらって入場できる。科学的唯物論を疑問に付すようなことをしてみよ、必ず罰を受ける。ちゃんと耳の穴をかっぽじって聞いておくがよい。

ところで私の手紙はこれくらいにしておこう。私は今から日曜版タイムズを買いに店まで行かなくてはならない。(もちろん、ここ地獄でもタイムズは手に入るさ。販売網はすごいものだ。)週末版はここの「不都合な」店ではすぐ売り切れになる。無神論的な見出しが躍っているよ。

ではまた、ウォールター

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