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宗教は衰えず――宗教は本当にすべてを害するか?

By: Logan Paul Gage
Touchstone
January 8, 2008

「宗教はすべてを害する」と、クリストファー・ヒッチンズ(Christopher Hitchens)のベストセラー『神は偉大ではない』(God Is Not Great)は、賛美歌のように何度も繰り返し断言している。「我々は宗教なしでも倫理的な生活が送れると信じている。そして、そこから推論される事実も本当であることを知っている――すなわち、宗教によって、人は他人より格別 に行いが良くなるわけでもなく、そればかりか売春宿の経営者や民族浄化を実行する者たちでさえ驚くようなことを、平然と行う者が無数に存在する。」

信仰の篤い人々は、宗教を信じる人が悪事を行っても衝撃を受けないだろう。しかしダーウィニズム擁護者であるオックスフォード大学のリチャード・ドーキンズは、更に一歩踏み込んだ主張をしている。「ある社会において、宗教を信じる者が無宗教者より多少なりとも道徳的であるという証拠は、まったく存在しない」と、彼は最近のインタビューで述べた。

信仰者は悪事を犯すだけでなく、彼らの行動は他の人々と同じだというわけである。果 たしてドーキンズは正しいのか? 宗教が社会に与える影響について、最近の社会科学研究は何と言っているか?

プリンストン大学、ペンシルヴェニア州立大学、ベイラー大学、その他の機関の著名な社会科学者グループが、「宗教の実践と市民生活:研究が示す実態」をテーマとする会議で、こうした質問に回答している。昨10月下旬にワシントンD.C.で開かれたこの会議は、ヘリテージ財団とその研究パートナーであるチャイルド・トレンズおよびベイラー宗教研究所が共催したものである。

ドーキンズは間違っている

学者たちはまず、米国の宗教の傾向を検証した。宗教は、少なくとも米国では、衰退していない。ただし「一般 社会調査」(GSS)を行っているシカゴ大学のトム・スミスによれば、過去35年にわたって宗教傾向には、これといった明確な全体的方向性も見られない。

彼によれば、神への信仰は堅実で、祈祷や死後の世界への信仰はともに増しているが、その一方で、宗教礼拝の参加者や宗教団体に所属する人の数は減少している。例えば特定の宗教を好まない人の割合は6%から16%へと上昇した。この傾向はあらゆる年齢層で見られるが、若者の間で特に顕著だ。18〜27歳では、宗教を信じていない人の割合が1970年代の13%から現在の25%近くへと急増した。

組織的宗教に対する信頼も低下している――これは主に、テレビ伝道師や聖職者の虐待スキャンダルが原因だ、とスミスは主張する。より個人主義的な宗教の形態(例えば、祈祷や死後の世界に対する信仰)が増加する一方で、特定の宗教に対する好みといった組織的な識別 要因が減少したため、集団的礼拝に代わって私的宗教(あるいは「スピリチュアリティ」)が増加したと彼は結論付けた。

市民参加(civic engagement)――例えば、新聞購読や投票など――および任意団体への加入も、教会への参加頻度とともに増加する。無宗教者における任意団体――市民クラブやPTOなど――1件に対し、週1回以上宗教礼拝に出席する人々では、このような任意団体が2.4件ある。

このように、スミスは「宗教との関わりは市民参加の割合と関連があり、恐らくそれを促進している。・・・信仰コミュニティに参加する人々は無宗教の人々と比べ、投票率が高く、任意団体に参加したり、利他主義的な行動をとる傾向が強い」と結論付けた。

宗教的な利他主義

後者の主張はおこがましく聞こえるかもしれないが、2002〜2004年のGSS調査によれば、無宗教者が行った100件の利他的行動――献血や、レジで他人を先に並ばせてあげるなど――に対し、宗教者の利他的行動は144件だった。

ボランティア活動も宗教の恩恵を受けている、と「ベイラー宗教調査」(Baylor Religion Survey)を引用したベイラー大学のクリストファー・ベーダーとF・カーソン・メンケン(ようやく、宗教に好意的になったメンケン)は述べた。毎週教会に通 う人は、教会の関連団体と一般団体の両方を通じて、地域におけるボランティア活動に、より頻繁に参加している。

この相関関係は男性の間で特に顕著である。総合的には男性より女性の方がボランティアに参加する割合が高いが、毎週教会に通 う男性の場合、毎週教会に通う女性と比べて、その割合が10%近く高い。また収入はボランティア活動とほとんど関連性がないが、高収入(すなわち世帯収入が100,000ドル以上)の人については、毎週教会に通 うこととボランティア活動に明らかな相関関係がある。

テキサス大学のマーク・ミューシックによれば、これは米国だけの現象ではない。彼は最初、ボランティア活動の最良の指標は教育だと考えていたが、研究の結果 、そうではないと確信した。収入や教育以上に、世界のボランティア活動のもっとも強力な予測因子は、宗教礼拝への参加である。

これによって我々は、なぜユタ州とネバダ州が地理的に近いにも関わらず、それぞれ最高、最低のボランティア参加率を示すのかが理解できる。明らかに宗教的なボランティア活動を除外しても、モルモン教徒が集中するユタ州はなお国内第10位 に位置する。

再び、ドーキンズは間違っている

しかし非倫理的な行動についてはどうか? 宗教を信じる人々が他の人々より特に優れているわけでもなく、恐らく偽善者であるという点で劣ってさえいる、という主張は正しいのか?

データはそのように示していない。心理学者や社会学者は40年近くにわたり、思春期の若者における、宗教とさまざまな否定的行動の関係を調査してきた。あるメタ研究(研究の研究)によると、97%の研究が、宗教と性行動の負の相関関係を示しており、94%の研究が、アルコール使用と宗教の負の相関関係を示していた。更に87%が、自殺と宗教の負の相関関係を示していたという。

ピッツバーグ大学のジョン・ウォレスJr.と彼の同僚が行ったある調査では、10代の若者に過去30日以内にたばこを吸ったことがあるか、飲酒でどんちゃん騒ぎしたことがあるか、マリファナを吸ったことがあるかと尋ねたところ、毎週教会に通 って宗教を信じている子供たちは、喫煙や大量の飲酒をしていないと回答した割合が2倍、マリファナを吸っていないという回答も2倍以上高かった。

しかし宗教は個人のレベルだけでなく、コミュニティ・レベルでも行動に影響を与える、とウォレスは主張する。学生たちを取り巻く道徳的コミュニティは、彼らに個人的な宗教心(religiosity)を超えた影響を与える。ウォレスはこれを例えで示している。バスケットボールのファンでなくてもノースカロライナ大学(UNC)に通 えば、UNCのコミュニティに参加することによって、バスケットボールへの関心が高まるというのだ。ウォレスは8〜12年生(中学2年〜高校3年生)の生徒を調査したデータを用いながら、学校の道徳的気風は良きにつけ悪しきにつけ、個人の宗教心を超えて10代の若者に影響を与えると主張する。道徳的な環境は重要である。

更に、宗教が薬物使用に及ぼす影響は、短期的なものだけでないことも分かっている。ベイラー大学のサンジュン・ジャンとバイロン・ジョンソンは、13歳未満における宗教心が成人早期の宗教心を高め、その結果 、薬物に反対する「保護因子」を増加させ、「リスク因子」を減少させることを示した。青少年期の薬物使用や反社会的行動は、その後の犯罪行為の増加と関連しており、この点は特に重要である。

ペンシルヴェニア州立大学のジェフリー・ウルマーとパーデュー・スコット・デズモンド、ベイラー大学のクリストファー・ベーダーは、高度に学術的な方法を用いて、なぜ宗教が非行を抑制するのかという問いに答えようと試みた。自制心(セルフコントロール)は筋肉のようなもので、使用・不使用によって成長したり萎縮したりすることを、心理学的実験によって示した後、彼らは、宗教に従うことが二通 りの方法で、逸脱した行動を抑制すると結論付けた。第一に、宗教は個人の自制心を高め、道徳的規範を与える。第二に、宗教を信じる若者はそうでない若者と比べ、タバコやアルコール、マリファナに対する自制心が強い。

更に宗教は、暴力犯罪や停学、その他多くの問題行動の減少と有意に相関している。

世俗主義者の驚き

米国の宗教が、大規模な復興あるいは衰退の只中にあるとの考え方には注意を促しつつ、プリンストン大学の宗教学者ロバート・ウスノーは基調講演で、「教会参加や宗教団体への加入といった、宗教の活力を示す標準的測定値に、深刻な低下の兆しが見られる」とコメントした。そしてその理由は、米国における晩婚化・晩産化と少子化、それによる教会への真剣な関心の遅れと関係している、と付け加えた。

ウスノーは、宗教が依然として完全消滅しないことに、知識人たちは絶えず驚いていると指摘した。ドーキンズはかつて、「信仰は・・・天然痘ウイルスに似ているが、撲滅するのは天然痘よりもっと難しい」と嘆いた。社会が善くあることを願う人々は、彼が後者について正しいことを望んでいる。

会議の講演ビデオの視聴www.heritage.org/Research/Features/Religion/ConfVideo.cfm
会議の主催者に関する情報www.heritage.org, www.childtrends.org, www.baylor.edu/isreligion
ロバート・ウスノーの基調講演「Myths About American Religion」(アメリカの宗教に関する神話)www.heritage.org/Research/Religion/hl1049.cfm

(ローガン・ポール・ゲージはワシントンD.C.のディスカバリー・インスティテュートの政策アナリスト。ケーシー・ラスキンとの共著「A Reply to Francis Collins’ Darwinian Arguments for Common Ancestry of Apes and Humans」(フランシス・コリンズのサルと人間の共通 起源に関するダーウィニズムの主張に対する返答)が、近日出版予定の「Intelligent Design 101: Leading Experts Explain the Key Issues」(インテリジェント・デザイン101―主要問題に関する専門家の説明)(2008年クレゲル出版社)に収録されている。)

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